GoogleスプレッドシートとGASは便利だが「Access代替」には課題がある
Excelの代替として、Googleスプレッドシートを日常的に使っている人は多いでしょう。
さらにGoogle Apps Script(GAS)を組み合わせれば、自動化や外部サービスとの連携まで手軽に実現できるため、業務改善ツールとしても非常に強力です。
しかし、「スプレッドシート+GAS」であらゆる業務が完結するわけではありません。
特に、Microsoft Accessが果たしていた「データベース的な役割」まで置き換えられるか? という視点で見ると、どうしても限界があります。
以下ではまず、スプレッドシートの強みと弱点、そしてAccessが担っていた役割を整理してみましょう。
スプレッドシートの強みと弱点
スプレッドシートの魅力はなんといっても「手軽さ」と「共有性」です。
- 無料で使える
- ブラウザやスマホアプリからすぐアクセス可能
- 複数人で同時編集できる
- GASを使えば自動処理や外部サービスとの接続が可能
これらの点でExcelより優れている部分も多く、特にクラウド前提のチーム業務では欠かせないツールになっています。
一方で、データベースとして見たときには以下のような弱点があります。
- 大量データになると処理が重くなる
- リレーション(テーブル間の結合)ができない
- データ整合性を担保する仕組み(主キー制約や外部キー制約など)がない
- セキュリティやアクセス権限の細かな制御が難しい
つまり、表計算ソフトとしては万能でも「本格的なデータベース」としては微妙なのです。
Accessが担っていた役割とは
Microsoft Accessは「データベース管理」と「アプリケーション開発」の中間に位置するツールでした。
ユーザーはExcel感覚でデータを扱いつつ、以下のような機能を利用できました。
- 複数テーブルのリレーション設計
- SQLクエリによる柔軟な検索・集計
- 入力フォームやレポートの作成
- 小規模ながら複数ユーザーでの利用
特に中小企業や部門単位の業務では「ちょうど良いデータベース」として使われ、Excelでは難しい複雑なデータ管理をカバーしてきました。
スプレッドシート単体ではこのようなAccessの役割を完全に代替できないため、補完できる仕組みやツールを選ぶ必要があります。
Access代替として使えるデータベースの選択肢
Accessが担っていた役割を補うには、「表計算ソフトの延長線で気軽に使えるもの」から「本格的なリレーショナルデータベース」まで、いくつかの選択肢があります。ここでは特にGoogleスプレッドシートやGASとの相性を踏まえつつ、代表的な5つのツールを紹介します。
Airtable|スプレッドシート感覚で使えるクラウドDB
Airtableは、見た目はスプレッドシートに近いUIを持ちながら、裏側ではデータベースとして動作するクラウドサービスです。
- スプレッドシート感覚で操作可能
- テーブル間をリンクさせてリレーションを簡易的に実現
- カレンダー表示やカードビューなど、Accessのフォーム・ビューに近い機能あり
- API経由でGASからデータ操作も可能
小規模の顧客管理や案件管理など、Accessの「ちょうど良さ」を求める場合に最も近い存在と言えます。
Google Cloud Firestore|GASとの連携が強みのNoSQL
FirestoreはGoogleが提供するクラウド型のNoSQLデータベースです。
- JSONライクなデータ構造で柔軟に保存可能
- リアルタイムでデータ同期できる
- GASからAPIを叩いて直接読み書き可能
- アクセス権限の制御やスケーラビリティが強力
リレーショナル機能は弱いため、「スプレッドシートをフロント」「Firestoreをバックエンド」として組み合わせる構成に向いています。チャットや申請管理のようにリアルタイム性を求める業務にも好相性です。
Google Cloud SQL(MySQL/PostgreSQL)|本格的なリレーショナルDB
もしAccessの「リレーショナルデータベース」としての機能をしっかり継承したいなら、Google Cloud SQLを使ったMySQL/PostgreSQLが現実的です。
- 複雑なSQLクエリやリレーション設計が可能
- データ量が増えても高いパフォーマンスを維持
- GASからJDBCやAPI経由で接続できる
ただし、初期設定や管理には技術的知識が必要で、コストもクラウド利用料が発生します。本格的にDBを使いこなしたい企業や開発チーム向けです。
SQLite|個人利用やオフライン用途に最適
SQLiteは非常に軽量なRDBで、単一ファイルで完結します。
- セットアップ不要で手軽に使える
- SQLが利用できるため、Accessのクエリ機能に近い感覚
- 無料で利用可能
同時アクセスや大規模利用には不向きですが、個人の分析やオフライン環境での小規模DB利用には最適です。スプレッドシートからCSVをエクスポートして取り込む、といった使い方がシンプルで分かりやすいでしょう。
Microsoft Power Apps + Dataverse|正統派のAccess後継
Microsoftが公式にAccessの後継ポジションとして位置づけているのが、Power AppsとDataverseです。
- フォーム作成やクエリ実行など、Accessの操作性を踏襲
- Microsoft 365との親和性が高い
- クラウドベースで複数ユーザーが利用可能
GoogleスプレッドシートやGASとの連携は直接的ではないものの、Power Automateを介して連携可能です。既にMicrosoft環境を使っている企業にとっては最も自然な移行先となります。
どう選べばいい?比較のポイント
ここまで紹介したように、Accessの代替となり得るデータベースは複数あります。ただし「どれがベストか」は利用シーンや利用者のスキルによって変わります。そこで、選ぶ際の判断軸を整理してみましょう。
UIの直感性(スプレッドシート感覚かどうか)
Accessが支持されてきた理由のひとつは「Excelに近い感覚で操作できる点」です。
この観点では、AirtableやDataverseが近い存在です。フォームやビューを用意して、ユーザーが直感的にデータを入力・検索できる仕組みを備えています。
逆にCloud SQLやSQLiteはSQL操作が前提となるため、エンジニアやデータ分析に慣れていないとハードルが高くなります。
データベースの堅牢性(SQL・リレーションの必要度)
Accessを単なる「表管理」ではなく「リレーショナルDB」として使っていた場合、この観点が特に重要です。
- 本格的なリレーションや複雑なクエリ → Cloud SQL(MySQL/PostgreSQL) が最適
- 簡易的なリレーションで十分 → Airtable や Dataverse
- リレーション不要で柔軟性重視 → Firestore
つまり、「リレーションがどこまで必要か」 で選択肢は大きく絞られます。
GASとの連携のしやすさ
Googleスプレッドシートをメインで使う場合、GASから直接扱えるかどうかは大きなポイントです。
- Firestore → Google公式サービスなので相性抜群。APIも豊富でGASとの親和性が高い。
- Airtable → REST API経由で連携可能。シンプルなスクリプトでスプレッドシート⇔Airtableの同期ができる。
- Cloud SQL → JDBC接続やAPI経由で可能。ただし接続設定や認証周りがやや複雑。
- SQLite → 直接連携は難しく、CSVなどを介する必要がある。
- Dataverse → Power AutomateなどのMicrosoftサービスを経由する必要あり。
「スプレッドシートとの自動連携」を重視するなら、FirestoreかAirtableが有力です。
コストと技術的ハードル
導入コストと学習コストも無視できません。
- 無料で始めやすい:SQLite、Airtable(無料枠)、Firestore(無料枠あり)
- クラウド利用料がかかる:Cloud SQL(数千円〜)、Dataverse(Microsoft 365サブスクリプション必須)
- 技術的ハードル低い:Airtable、Dataverse
- 技術的ハードル高い:Cloud SQL(SQL知識・クラウド管理が必要)
「お金をかけずにすぐ試したい」ならAirtableやFirestoreから始めるのが現実的です。
ユースケース別のおすすめ
ここまで比較ポイントを整理しましたが、「結局どれを選べばいいのか?」は業務の規模や目的によって異なります。そこで、典型的なユースケースごとに最適な選択肢を提示します。
初心者/ノーコード志向 → Airtable
- Accessのように「フォームやビューをサクッと作りたい」人に最適
- スプレッドシートに慣れているユーザーでもすぐに扱える
- 顧客管理、案件管理、イベント管理など小〜中規模業務におすすめ
👉 「Access感覚をクラウドに持ち込みたい」ならAirtableが第一候補です。
Googleサービス連携重視 → Firestore
- GASとの連携がスムーズで、自動処理やリアルタイム更新に強い
- スプレッドシートを入力UIにして、Firestoreをデータベースとして活用できる
- チャット、申請ワークフロー、リアルタイム集計などに適している
👉 「Googleスプレッドシートを中核にシステムを構築したい」ならFirestoreが有力です。
SQL・リレーション必須 → Cloud SQL(MySQL/PostgreSQL)
- Accessで複雑なクエリやリレーションを駆使していた場合はこちら
- 大量データや高度な分析が必要な業務に対応可能
- エンジニアリソースがある企業や開発チーム向け
👉 「Accessを本格的なRDBとして使っていた」場合はCloud SQLで移行を検討すべきです。
個人利用/オフライン利用 → SQLite
- サーバー不要でセットアップが簡単
- 無料で使えて、SQLもそのまま利用可能
- 小規模データやオフライン環境での利用に最適
👉 「一人で使うAccessファイルの代替」ならSQLiteがベストです。
Microsoft環境で継続 → Power Apps + Dataverse
- Microsoft 365との統合がスムーズ
- Accessのフォームやクエリ操作感を継承
- 社内で既にMicrosoft製品を中心に使っている場合に最適
👉 「Accessからの正統な移行」を求めるならDataverseを選ぶのが安心です。
まとめ
GoogleスプレッドシートとGASは非常に便利ですが、Accessが担っていた「データベースとしての役割」までを補うには不十分です。
そこで、Airtable・Firestore・Cloud SQL・SQLite・Dataverse といった代替候補を、ユースケースに応じて使い分けることが重要になります。
- 気軽に始めたい → Airtable
- Google中心の環境 → Firestore
- 本格RDBが必要 → Cloud SQL
- 個人・オフライン → SQLite
- Microsoft環境 → Dataverse
自分の業務規模や利用環境に合わせて最適な選択肢を見極めることで、Accessからの移行をスムーズに進めることができます。